大手製薬会社の早期希望退職で白熱した「MR不要論」は本当なのか|現役MRの観点から現状を分析してみた!

ここ数年で製薬業界を取り巻く環境は大きく変わりました。

国内売上トップを争うような大手製薬会社でも、早期希望退職という形でリストラが行われたことが印象的でした。

MR不要論を頻繁に聞くようになった現在、その是非を現役MRとしての立場から回答していきます。

 
この記事は、2023年1月1日に更新されています。

「MR不要論」とは何か

MR不要論とは、製薬会社の営業とも言えるMRという職種は不要なのではないかとする説です。

昔から提唱されてきましたが、大手製薬企業が実施したリストラを機に議論が再び白熱した印象を受けました。

「MR不要論」が登場した背景

「MR不要論」が登場した背景について、主に以下の要因が考えられます。

(MR不要論が登場した背景)

  1. 新薬の数が激減した
  2. 主要領域の変遷
  3. 華美過大な接待の規制
  4. 業務内容に対して給料が高すぎた
  5. コロナ禍によってリモート面談が普及した

次章から、それぞれの理由を考察していきます。

新薬の数が激減した

一昔前までは製薬技術が急速に発達していく過程で、新薬が次々に開発・承認されてきました。

しかし、現在では創薬に関わる自然界の物質は出尽くしたと言われており、新しい化合物を薬として活用できないかに主軸が移っています。

一つの薬を開発して販売するには莫大な時間と費用が必要です。

時間とお金を掛ければ必ず成果に結びつく保証はなく、化合物が薬として販売するに至る確率は約1/25,000と言われています。

 
創薬の段階から、かなりの投資が必要なんだね。

一度新薬が開発されると、メーカーは特許が存続する期間に巨額の利益を得ることができます。

基本的には、「新薬を販売して得た利益の一部を研究開発に投資する」というサイクルを繰り返して創薬が行われます。

参照:【製薬会社】カナデと学ぶ!医薬品ができるまで【バーチャル社員】

つまり、新薬が開発されないことは研究資金源の減少を意味します。

日本は海外の製薬メーカーと比較して研究開発費が少ないと言われています。

新薬開発による利益が得づらくなった現在、経費削減の一環としてかつて高給取りの代名詞であったMRに白羽の矢が立っていることは事実です。

 

それでも全体的に高水準な給料だとは思うよ。

主要領域の変遷

中枢神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系、内分泌系といったように、薬はいくつかの領域によって分類されています。

これまで医薬品業界において注目されていたのは、高血圧や糖尿病などの、いわゆる就活習慣病に関わる領域でした。

高齢化が進む日本において罹患者が多く、これからも需要が拡大していくことが見込まれます。

 
生活習慣病は高齢になると罹患しやすいね。

しかし、近年ではオンコロジー領域と呼ばれるがんに関連する領域に注力するメーカーが増えてきました。

小野薬品工業が開発したオプジーボは世界にも衝撃を与えました。

参照:がん治療薬「オプジーボ」の売上高、前年同期比18倍(16/11/07)

これらの製品を扱うには高度な知識が必要で、メーカーによってはオンコロジー専門部が設置されています。

主要領域の変遷によって、MRに求められる知識量は高度化しました。

 

オンコのMRは毎日文献を読んだり大変そうだよ。

人員の見直しや整理が行われるようになり、MR不要論を助長する要因の一つになったのではないかと考えられます。

実際、私の所属する製薬会社でも実質的なリストラが実施され、少数のMRで広いエリアを担当する傾向が強くなっています。

 

業務内容に対して給料が高すぎた

上記の二つにも関係しますが、MRの給料は高過ぎたのではないかと見直す動きが活発になりました。

かつては次々に新薬を開発すると同時に高待遇を謳ってMRを積極的に採用し、販売拡大を目指してきました。

 
未採用者も積極的に採用されていたみたいだよ〜

MR数を増やしても新薬の販売利益でバランスが保たれていましたが、現在は同様の方法で医薬品を売ることが難しくなりました。

出典:https://www.jpma.or.jp/opir/news/065/09.html

給料を減らせばいいかと言えば、昔から勤務している方々からすればそう簡単に任用できるものではありません。

また、新しく優秀な人材を確保するためにもある程度の給与水準は保たれる必要があると思います。

 
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優秀な人材は高待遇の企業に集まりやすいよね。

普段の給料に加えて、MRには非課税の日当が支給される会社が多くあります。

一日あたり¥3,000で一ヶ月20営業日あるとすると、これだけで6万円の収入になります。現在では日当を廃止したり再検討する動きが出てきています。

 
非課税で数万円の収入は非常に大きいね。

基本給自体が大幅にカットされることはないと思いますが、日当を含めて家賃補助など福利厚生面での見直しの動きは加速していくのではないかと思われます。

華美課題な接待が問題視される

MRによる医師に対する華美過大な接待が問題視されるようになりました。

特に2010年以降はMRによる接待が厳しく制限される動きが強まってきました。現在、医療用医薬品製造販売業公正競争規約によってMRの活動が規定されています。

 
医薬品公取協についてはこちらの公式サイト。

実態としては、更に厳しい基準を設けた各社の規定に従うのが通例になっています。

製薬会社全体の使命は治療を待ち望む患者様に医薬品を提供することであり、「医師に接待をする必要は本当にあるのか」が問われれるようになりました。

接待が前提の営業に陥り、自社製品を採用してもらうことに主眼が移ってしまうという懸念がありました。また、他業界からすれば当然のごとく異様に感じられたことでしょう。

一回で数万円する会食、ゴルフ接待、海外旅行のプレゼントを当たり前のように会社の経費で行っていた時代が存在します。

 

患者様のことを第一に考えたら、見直されて然るべきだよね。

コロナ禍によってリモート面談が普及した

 

今後も製薬会社にMRが必要であると考える理由

個人的に、製薬会社においてMRは必要であると考えています。

私がそのように考える主な理由は、以下の通りです。

(MRが必要であると考える理由)

  1. 対面による情報提供は信頼性が高いから
  2. MRによる情報提供が多く活用されているから
  3. 製品以外でもニーズに合わせた提案を行えるから
 
ここからは細かい理由を説明していくよ。

対面による情報提供は信頼性が高いから

新型コロナの影響でリモート面談が増加したとは言えども、やはり対面での情報提供を求める先生もいらっしゃいます。

リモート面談では、以下のようなデメリットがあります。

出典:https://doda.jp/guide/ranking/098.html
相手の表情が分かりにくい、通信トラブル、セキュリティ上の問題など、オンラインならではのデメリットが挙げられています。
また、ツールを使用する者のネット・リテラシーに依存することも特徴的です。
 
高齢の先生はインターネット環境に慣れていないかも。
大事な情報は直接提供してもらいたいという考え方がまだまだ自然だと思われるので、直接現場に出向かえるMRは大切な存在だと考えれらます。

 

MRによる情報提供が多く活用されているから

使用する薬剤を決定する際に、MRによって提供された情報が多く活用されていることを示すデータがあります。

MR BiZというMR向けの転職サイトに掲載されているデータを引用しました。

出典:https://mr.ten-navi.com/interview/05/

使用する薬剤を決定するだけでなく、情報を入手した後もMRは情報源として活用されているため、その必要性は高いものと推察されます。

MRは製品説明に加え、副作用などの情報収集を迅速に行う必要があるため、企業に所属するのが望ましいと私は思います。

 

製品以外でもニーズに合わせた情報提供を行えるから

MRから得られるのは製品に関する情報だけではなく、企業が独自に提供する薬価や診療報酬制度に関するものが含まれています。

私が所属する会社でも、診療報酬や医療経営に関する資料が提供されています。

医療制度は定期的に改定されるので常に最新の知識が求められ、内容は複雑であることが多いです。

 

専門の部署が設けられている企業もあるよ。

病院や薬局の先生側からは経営を改善するヒントが得られ、企業側としては関係性を構築して製品を購入してもらうきっかけにすることができます。

直接の情報提供を行うのがMRでなくても、会話の中で先生方のニーズを聞き出すためにMRは必要であると思います。

 
先生の相談相手になれたら関係性が深まるね〜

これからの時代を生き残るMRになるためには

これからのMRのあるべき像として、強化される規制に対応できる法令遵守、高度な専門性を備えることが必須であると思います。

2022年、小野薬品のMRが大学教授に対して不正献金を行い、その見返りに自社製品の使用量を増やしてもらっていたという事態が発覚しました。

参照:小野薬品に家宅捜索!三重大病院の不正請求事件に関与か!?

また、ジェネリック業界では相次ぐGMP違反、安定供給ができない事態に陥り、業界全体として信頼が揺らぐ事件が起きています。。

MRは信頼関係の回復を図る、企業と医療関係者の橋渡し役を担います。

自社や製品の悪い部分も包み隠さずきちんと伝えられるMRが先生方からの信頼を獲得し、その結果として数字に表れるのが理想のサイクルと言えます。

 

結論、「MR不要論」は一部正しいが語弊もある

ここまで検討してきた通り、私は今後もMRという職業は必要だと考えています。

正確に表現するならば、「大量のMRは不要論」が適していると思います。

製薬業界を取り巻く環境は大きく変動し、仕組み自体が見直されるようになり、改めてMRの存在価値が問われています。

参照:将来が心配な人 必見!製薬会社の「MR不要論」と生き残るMRについて

経費削減のためにMRの数は抑制する一方、仕事の質や医療関係者との信頼関係は担保し続けなければなりません。

したがって、以前より少数精鋭で業務を回していくことが企業に求められるようになったと考えられます。

高度な専門知識、先生方と良好な信頼関係を気付けるコミュニケーション能力などのあるMRが生き残り、何も考えないで仕事をしていると淘汰される時代になったと言えます。

私自身、「患者様に寄り添う」というMRの使命を常に意識し、今後も業務を遂行していきたいと考えています。

 
最後まで読んでくれてありがとう。