製薬会社にMRとして入社すると、数ヶ月間は基礎的な医療・法的知識を学習する研修が行われます。
毎年12月に実施されるMR認定試験合格を目指すためのもので、会社によって異なりますが数ヶ月〜半年ほどの期間が設けられています。
私も製薬会社にMRとして入社したので、MR認定試験を受けて合格しました。
本記事では、研修期間中に学習内容、私なりに見つけた効率的な学習方法やアイデアノートを公開します。
「疾病と治療(基礎)」で出題されやすい問題の傾向
「疾病と治療(基礎)」では特に7章の泌尿器・生殖器系と8章の代謝・内分泌系をしっかり理解することが大切です。
泌尿器・生殖器系で学習する腎臓は、血圧調整、ホルモン分泌、薬物排泄に大きく関わっており、ここが理解できていないと臨床で扱う医薬品の作用機序を理解できません。
また、代謝・内分泌はホルモンの名称をたくさん覚えなければならず大変な分野ですが、MR認定試験ではこの分野からの出題数が多めです。逆に言うと、しっかりと覚えていれば安定した得点源にすることができます。
おすすめの勉強方法と絶対に覚えておきたいポイント
体の構造は適度にイラストが挿入されていて、視覚的に覚えることができます。
しかし、細胞レベルの目に見えない分野になると文字を頼りに勉強せざるを得ません。イメージが湧きにくため、文系出身者は苦手とする方も多いかと思います。
私は以下のように工夫して学習を進めていました。
- テキストを音読する
- 自分なりに表を作成してまとめる
- 新しい語呂を創出して暗記する
- 間違えた問題の周辺知識を補強する
テキストを声に出して読むことで視覚に加えて聴覚情報として記憶に残ります。
代謝過程や薬の作用機序を同期同士で説明することも記憶の定着に役立ちます。人に説明するためには、まずは自分がしっかりと理解している必要があるからです。
頻出する「アラキドン酸カスケード」を例に紹介します。
(例) アラキドン酸カスケード
- 細胞膜リン脂質にホスホリパーゼA2が作用する
- 遊離アラキドン酸が産生される
- COXの働きでプロスタグランジンが産生される
- LOXの働きでロイコトリエンが産生される
断続したものとして記憶するのではなく、「カスケード」と言われているように一連の流れを頭に入れるように心掛けましょう。
途中で抜けてしまった知識があればそこを重点的に見直し、繰り返すことで知識の定着が図れます。
頭の中でうまく整理できない場合は、自分なりにノートに表や図を用いてまとめましょう。
人によってやり方は様々だと思いますが、参考として私が実際に書いていたノートを紹介します。
少し時間が掛かって面倒に感じるかもしれませんが、自分の手を動かして覚えた知識は記憶に残ります。
そうは言っても時間が限られる中で全てをノートに書き写すのは非効率的です。テキストを通読して理解できたものは省くなど、情報量が多くなり過ぎないように注意しましょう。
テスト直前に自分のノートを見返して最終確認することにも利用できます。自分専用のも参考書を作るつもりで取り組みましょう。
どうしても覚えられない単語や組み合わせは無理矢理にでも語呂を作り出し、覚えやすように工夫していました。
頻出・重要語句はネットで検索するとたくさん出てくるので、自分が覚えやすいと思ったものを積極的に活用していきましょう。
一つ例を挙げると、「間脳」の構成を次のように覚えました。
「疾病と治療(臨床)」で出題されやすい問題の傾向
「疾病と治療(臨床)」では、8章の代謝・内分泌系と12章のがんが大切だと感じました。
代謝・内分泌系では糖尿病や脂質異常症について学習します。糖尿病に用いられる薬剤は多くの種類があり、作用機序が全く異なります。
薬剤の分類や作用機序は、後に紹介する「医薬品情報」でも同じ内容が問われてきます。どのテキストから学習を始めるかは企業によりますが、糖尿病の治療薬は早めに覚えてしまうとその後の学習負担を軽減できます。
また、近年は小野薬品の「オプジーボ」に代表されるように、抗がん剤の注目度が高まっています。抗がん剤は副作用が強く、併用禁忌の薬剤も多くあるので、問題として出題されやす分野ではないかと思います。
おすすめの勉強方法と絶対に覚えておきたいポイント
基礎の科目と基本的な学習スタイルは同じでしたが、臨床で特にお勧めの学習方法は以下の通りです。
- 英語の略語までしっかり覚える
- 定期的に前の章を振り返る
- YouTubeで手術動画を視聴する
- 学会や著名な教授の論文に目を通す
医療用語は長くなってしまうものが多く、英語を用いて省略されます。MR認定試験では略語の形で出題されることがあるので、表記に慣れておく必要があります。
略される前の英語表記をそのまま覚える必要はありません。
しかし、頻出単語の「慢性」を英語にすると「Cronic」など、共通して活かせる部分を把握していければ、略語を見てある程度の推測ができるようになります。
- アデノシン三リン酸 → ATP
- 慢性閉塞性肺疾患 → COPD
- 生物学的抗リウマチ薬 → bDMARRD
- 糸球体濾過量 → GFR
- アメリカ国立がん研究所 → NCI
「医薬品情報」で出題されやすい問題の傾向
「医薬品情報」で特に重要なのは、4章の薬物作用、6章の医療用医薬品添付文書です。
薬物作用では、「疾病と治療」で学習した薬物についてさらに深掘りしていきます。作用機序、副作用、薬物動体では暗記ではなく理解するように学習を進めましょう。
薬物作用は具体的な薬剤名と作用機序について学びます。
「利用薬」一つを例にしても、作用部位や機序の違いによって4種類あります。
(例) 利尿薬の分類
- サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアシジド)
- ループ利尿薬(フロセミド)
- カリウム保持性利尿薬(スピノロラクトン、エプレレノン)
- バソプレシン受容体阻害薬
一度テキストを読んだだけでは頭に入ってきません。先ほど紹介したようにノートにまとめ直す、繰り返し問題を解くなどして、確実に点を取れるようにしておきましょう。
医療用医薬品添付文書は、MRとして活動する上で使う重要なツールです。
1997年に新設された「特定の背景を有する患者に関する注意」はよく問われ、小分類が多いので定期的に見直して確実に覚えましょう。
「特定の背景を有する患者に関する注意」
- 合併症・既往歴等のある患者
- 腎機能障害患者
- 肝機能障害患者
- 生殖能を有する患者
- 妊婦、授乳婦、小児等、高齢者
添付文書が作成される経緯、作成要領についても問題として問われます。
また、最後に紹介する「MR総論」と重なる部分が多くあるので、細かい部分までしっかりと覚えましょう。
添付文書は、日本病院薬剤師会の作成要領に基づいて各製薬会社が作成しているよ。
おすすめの勉強方法と絶対に覚えておきたいポイント
「医薬品情報」に限った話ではありませんが、できるだけ具体的なイメージを膨らませながら学習しましょう。
おすすめの勉強方法は以下の通りです。
- 「疾病と治療」のテキストを見返しながら学習する
- 実際の添付文書を見ながら学習する
添付文書については、一章分の量が設けられていることからその重要性がうかがえます。
テキストを通読しただけで理解するのは難しいので、自社製品の実際の添付文書を見ながら学習を進めましょう。細かい部分ではありますが、設問として問われる重要なポイントがいくつか存在します。
(例) 記載項目
- 「警告」 → 赤枠内に赤字で記載
- 「禁忌」 → 赤枠内に黒字や青字で記載
添付文書は必ず医療用医薬品の物を見ましょう。各製薬企業や医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページから確認することができます。
小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ点滴静注200mg」の添付文書のURLを例として貼っておきます。
「MR総論」で出題されやすい問題の傾向
MRは医薬品業界に関係する、関連法規、倫理観を身に付けている必要があります。
近年、残念なことに製薬会社のGMP違反が相次いでいます。そういった問題を認識させるためにも、法規に関わる分野の出題が多くなることがしばらくの間予想されます。
「MR総論」テキストの3章では法規について学びます。
私たちが守らなければいけない法令は何があるのか、何の目的で誰が定めているのかを意識しながら学習しましょう。製薬企業従事者として知らないと恥をかいてしまいます。
- GLP → 医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準
- GCP → 医薬品の臨床試験の実施の基準
- GVP → 医薬品等の製造販売後安全管理の基準
- GMP → 医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準
- GQP → 医薬品等の品質管理の基準
おすすめの学習方法と絶対に覚えておきたいポイント
医薬品の製造や製造販売に関する法規に関する知識が多く問われるため、社会科の勉強が苦手な方は苦労する傾向にあります。
ただし、一語一句覚えようとすると大変なので要点を押さえながら学習しましょう。
私がお勧めする学習方法は、以下の通りです。
- 問題を解きながらテキストの通読を行う
- 年号は重要なポイントだけ抑えるようにする
- 歴史的な背景を想像しながら学習する
問題を先に解くと、覚えるべきポイントを効率的に把握することが可能です。
私は後で紹介するMRカレッジで問題を先に解き、空欄箇所や選択肢の部分を要点だと仮定して勉強していました。
また、製薬会社に勤務する以上、薬害については知っておく必要があります。
特に有名なのが「サリドマイド事件」と呼ばれるものです。サリドマイドは睡眠薬の一つで、妊娠中に服用すると催奇形性があります。非常に残念で悲しいことですが、日本では死亡者を含めると約1,300人の方が被害に遭ってしまいました。
このような薬害を契機に、「医薬品の製造承認等の基本方針」などの法整備が進みました。
時代背景を考えながら学習することで流れとして覚えられ、製薬業界についての理解が深めることができます。
実際に使ったMR認定試験合格のための学習補助ツール2選
MR認定試験合格のための基本的な教材はテキストですが、私が実際に利用した学習補助ツールをご紹介します。
MRカレッジ
まず一つ目が、「株式会社アクメディッド」が提供しているMRカレッジというサービスです。
オンライン形式で実践に近い形の問題を解くことができます。十分な問題量が用意されているので、会社で実施される確認テストの直前はこちらをメインに学習を進めています。
穴埋めテキストをダウンロードして利用することも可能で、印刷する手間は掛かりますが基本的な単語を覚えるのに便利です。
本番は全て5肢択一問題ですが、本サービスは2択の問題が中心のため、難易度はやや低く感じます。
クリップ機能を利用して間違えた問題を復習しやすように保存、時間が経って忘れた頃に再度取り組む流れがおすすめです。
画面左下の方に写っているのがクリップ機能です。
問題数が多いため、試験直前にすべて解いて復習するのには無理があります。
1週間に1章のペースで学習を進め、クリップ機能で蓄積した問題を復習すると自分の苦手とする分野の知識を補えます。
コメント欄にテキストの該当ページが記載されているので、間違えた問題は周辺部分も一緒に見直すことで広い範囲で復習しましょう。
MR認定試験 完全攻略問題集
「株式会社薬ゼミ情報教育センター」が発行している『MR認定試験、完全攻略問題集』も活用しています。
定価は¥4,500とやや高いですが、会社から無料で提供されました。
問題数は少ないですが、MRカレッジとは角度の違う出題が多く、やや応用的な問題に対応する力を付けることができます。
以下では、私のおすすめの活用方法をご紹介します。
回答を赤シートで隠せるので、何度も繰り返し取り組めます。
また、問題左に回答チェック欄があるので、自分が間違えた問題が一目で分かります。赤ペンなどで目立つようにしておき、復習する際は誤答部分を中心に学習します。
解説がややあっさりしているので、間違えてしまった問題はテキストに戻って復習します。
いきなりこちらの問題集から始めると難しく感じるので、まずはMRカレッジなどで簡単な問題に慣れてから知識を補完しましょう。
学習内容は難しいの?勉強がすべてではない
人体の構造や疾病、治療について初めて学習する方にとっては最初は難しく感じるかもしれません。
私自身、学習する内容を理解できるのかしばらくは不安を抱えていました。
しかし、興味を持って学習している間に楽しくなり、理解が進むと難しい単語や用語をスラスラ読めるようになりました。製薬会社に入社する以上、この点は皆さんも心配要りません。
科目を跨いで共通する重要なポイントがあるので、関連づけて理解していくことで効率的に知識の定着が図れます。
試行錯誤しながら学習をし、12月のMR認定試験に合格することができました。
MR認定試験合格点
MR総論 55/80 (68.75%)
医薬品情報 53/80 (66.25%)
疾病と治療 66/110 (60%)もう2択とか3択の時代は終わりました。
5択です。— かりんちゃん@MR (@21MR7) January 31, 2022
MR認定試験なぜか合格しました😭😭👏👏👏ひとえに励まし応援してくださった皆様のおかげです〜〜😭😭👏👏👏首の皮一枚繋がりました〜😭😭
— らら💊2年目MR (@beagamechanger_) January 31, 2022
まずMR認定試験に合格することが一つの目標になります。
しかし、現場に出る前に身に付けておくべき知識やマナーは他にもたくさんあります。研修は学習に専念できる環境だからこそ、テキスト以外にも現場に出たときに活かせるスキル習得を積極的に心掛けて過ごしましょう。
学習は非常に大切ですが、それと同様にプライベートの充実なく有意義な生活は送れません。
休日は適度に学習量を確保しつつ、リフレッシュを図りましょう。勉強だけではモチベーションが維持できません。
MRの最終的な目標は安心・安全な医薬品を患者様に提供し、人々の健康な生活を実現することです。
テキスト学習は暗記や理解に苦労するかもしれませんが、目先のことだけではなく患者様のためを想って、一つひとつ丁寧に学習していきましょう。